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もういい歳なんで

わたしとちゃいます

朝のラッシュアワーでもなく、帰宅時でもない、昼過ぎの間の抜けたような時間帯。尼崎の雑居ビル。

営業先から戻ってきたわたしは、会社が入っている雑居ビルの一階でエレベーターを待っていた。鞄とキンキンに冷えた缶コーヒーを持ち、脇には読みかけのスポーツ新聞をはさんで。

朝の出がけに、経理の花子ちゃんに頼まれていた「ガリガリくん ソーダ味」を買ってくるのを忘れた。それを思い出したとたん、エレベーターが降りてきた。

そして、エレベーターに乗り合わせた三人。

ドアが閉まるや否や、誰かがこいた、スカしっ屁。

音はしないのが「スカしっ屁」、めっぽうクサい。

自分ではない。

大人なので、気にせず、この小さなトラブルをやり過ごす。

楽しみにしているスポーツ新聞のコラム、今日のネタはなんだろう。今日も外は35度を超えた。事務所に戻ったら、コーヒーを飲みながら、ゆっくりしても、課長もうるさいことは言わないだろう。

向かいに立つ若い野郎は、眉間に皺を寄せて、この四十代後半のオジサンをじっと見る。

自分ではない。

でも、わたしが折れよう。それで、乗り合わせたこの三名の平和と安静が保たれるなら。

残りのひとり、上の階に勤めるOL 瞳さん(勝手に命名)も、野郎がわたしに送る視線に気づいたのか、このせまいエレベーターの空間で、わたしから半歩離れた。

三人の関係性が決定づけられた瞬間。

これぐらい、平気です。

わたしではないことをわたしは知っているので、こいたのは、あの野郎か、もしかしたら瞳さんだ。

それはもう問わない。

もういい歳なんで。

 

 

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